前胸部にできた脂肪肉腫の男性の患者さんがおられました。その方は一度切除した後に局所再発したためにもう一度追加切除が必要な患者さんでした。局所再発とは、一度手術で切除したところ、もしくは近傍からまた同じ腫瘍が出現することを言います。その患者さんは、わたしが前医からその方を引き継いで担当し、手術の話をしようとしたところ、
「ところで、先生、わたしの病気はいったい何なのでしょうか?」
と。よくよく聞いてみると、自分の病気のことを前担当医から、
「悪性腫瘍で“癌”の様なできもの」
と説明されていました。
まぁ、担当医の言おうとしていることは解りますが、正確ではありません。医師のあやふやな知識は時として、患者さんを混乱させます。患者さんは、混乱の極みにおられました。
「悪性腫瘍と言われたけど、胃癌の様な「癌」ではないらしい・・・将来、転移するかもといわれているから“癌”なのかも、でも“癌”の様なモノとも言われたから、肉腫はホントの“癌”じゃないのだろうか・・」
ますます、昏迷を深めていきます。
基本的にすべての臓器・組織に悪性腫瘍が発生します。悪性腫瘍という言葉は、ひらがなの“がん”であったり、漢字の“癌”であったり、ときには“肉腫”なんて単語で表現されたりと・・・患者さんと話をしていると、
「混乱されているな・・」
と感じることがありますので、ここで、癌、がん、ガンそして肉腫といった“単語”の整理をしておきましょう。
まず、図をご覧下さい。人間を究極まで簡略化して書くとこのようになります。つまり、口から肛門までの“管”です。厳密に言うと、体腔・腎・泌尿器系の発生を考慮するとこの図では少し問題が残るため。発生学や病理学の専門家の先生から見ると“物言い”がつきそうですが、癌の発生の大筋をつかむには非常に判りやすい図だと私は考えます。物事は、まず大筋をつかむこと。これは大切なことで、必要に応じて追加事項・例外等を勉強して付け加える、もしくは修正していけばいいのです。
さて、まず、“上皮”ですが、上皮とはグルッと表面を覆っている組織のことをいいます。図でいうと、皮膚と腸管の表面を構成する組織です。そして、この上皮を構成する細胞を“上皮細胞”といい、この上皮細胞由来の悪性腫瘍を漢字で“癌” (英語ではcancer・carcinomaといいます)と書きます。腸管として、食道・胃・大腸は分かりやすいですね。ですから、食道上皮から発生するのが食道癌、胃の上皮から発生するのが“胃癌”、大腸は“大腸癌”です。
ここで、肺癌や肝臓癌などの消化管関連の癌も上皮由来の悪性腫瘍になります。なぜなら、「肺」も「肝臓」も腸管の“憩室(けいしつ)”として発生してくるため、腸管同様に上皮由来に分類します。憩室とは高速道路のパーキングエリアのようなもので、本道から入り込んだスペースとでもイメージして下さい。本道から入り込んでいるだけですから、結局本道とはつながっています。だから、肺癌、肝臓癌は上皮由来に分類されるのです。
外科医にとって、肺の手術と肝臓の手術に相似性を感じるのは、発生学的に同じパターンを取るためではないかと個人的に思っています。肺・肝臓の発生については、興味のある方は専門書をごらん下さいますよう、詳細はここでは割愛します。
一方、「間葉」は、上皮で囲まれた部分です。見方を変えると「間葉」は「非上皮」ですね。ここで、じっと、自分の手を見て下さい。「上皮」である皮膚の下にどのような組織がありますか?脂肪・筋肉・骨・軟骨といったものが頭に浮かびますね。そして、そういった、「非上皮」を「間葉」と呼びます。
そして、「間葉」由来の悪性腫瘍のことを「肉腫」(英語ではsarcoma)といいます。肉腫の代表的なものは、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫、横紋筋肉腫などがあげられ、発生した組織名が冠されています。
まとめると「上皮」由来の悪性腫瘍である漢字の「癌」と「間葉」、つまり上皮ではない組織由来の悪性腫瘍の「肉腫」を合わせて、ひらがなで「がん」もしくはカタカナで「ガン」と書きます。「がん」は、そのほとんどが塊(かたまり)をつくって増生するので、固形腫瘍(こけいしゅよう)とも呼びます。
といった説明でおわかり頂けたでしょうか?
