免疫療法-期待される第4の治療法-

2007年7月

免疫療法の歴史(昔ばなし)

キノコは身体に良いと、日本でも昔から椎茸、シメジ、松茸などいろんなキノコが好まれて食用にされてきました。これは、経験医学上、キノコには健康を促進したり、ある種の病気を治す力があることをも知られていたためだと思われます。また、中国では古来より生薬として漢方の分野でも盛んに使われています。

キノコは生物学的には「真菌」という部類に入り、カビと同じ仲間です。そして、この真菌類は、「β-グルカン」という多糖類を豊富に含んでいます。「β-グルカン」には身体の免疫系を刺激して活性化する作用があります。ですから、キノコの「身体に良い」とは身体の免疫活性の賦活が起源になっているのです。

キノコの免疫活性に関しては、
「キノコには食べられない毒キノコと食べられる食用キノコがありますが、食用キノコも本来、弱毒なのだと思います。でも弱毒は免疫系を逆に刺激して、身体の免疫系の活性を挙げるのです。だからキノコは身体にいいのです。」と言われた先生が居られましたが、

「なるほど・・」

と妙に納得してしまいました。

西洋医学における免疫療法“こと始め”

さて、話がだいぶ横道に逸れましたが、1970年代にキノコの抽出成分が免疫賦活剤として市場に登場しました。クレスチン(カワラタケの抽出物)、レンチナン(シイタケの抽出物)といったものがそれにあたります。今でも保険適用でその処方が認められていますが、どうも西洋医学としての免疫療法の走りは、このあたりにあるとしていいでしょう。

参考までに、クレスチンは自費で購入しても、ジェネリック商品を使用すれば月額 20,000〜30,000円ですみます。同じキノコの類を原料とした健康食品が軒並み月額数万以上の値段がすることを考えると、薬として認可され出回っているこういったモノを購入するほうがずっと経済的です。

さて、その後、免疫療法は分子生物学の発展に伴い、新しい方法論が開発されたりして大きく変貌を遂げていおり、一口に免疫療法といっても様々な治療法があります。一見、複雑に思えますが整理しながら見ていくと以外に簡単です。最近の免疫療法の動向を順に追って見ていきましょう。

さて、第4の治療法といわれるが・・その考え方

現在、免疫療法は手術・抗ガン剤・放射線の「3本柱」に次ぐ第4の治療法として脚光を浴びています。免疫療法は副作用が少ないのが最大の特徴ですが、治療法としては、まだ未知数の部分が多く確立した治療にはなっていません。その未知数の中で、「免疫療法で“がん”は治る」など誇大な表現が巷に氾濫していることもあり注意が必要です。

免疫療法は、身体の免疫力を高めて、或いは免疫の力を利用して身体の中にできたガン細胞をやっつけてしまえ、というコンセプトの治療法になります。ですから、治療法の分類としては全身治療に分類されます。

患者さんが免疫療法にたどり着くまで・・「求めよ、さらば開かれん」が現状

ところで、免疫療法が、第4と番号を振られるということは、多くは手術・抗ガン剤・放射線治療と標準治療の3本柱の後の治療法として選択されることが多いということでもあります。それも医師側から言い出して患者さんに勧めることは殆どありません。

多くは、患者さんご本人がインターネットや書籍で行きついたり、あるいは家人・知人に「今やっている治療ではダメそうだから免疫療法をやってみたらどうか・・」等と医師以外の経由で情報を得た後に行うというのが多いようです。 多くのガン専門病院、大学病院で免疫療法をしたいという申し出が患者さんからあった場合、

「まぁ、本人が望むなら・・どうぞ・・」

といった医師側の反応も少なくなく、どこか冷ややかです。

免疫療法に限りませんが、通常治療から外れるときは「求めよ、さらば開かれん」となります。大学の臨床試験などの特種な場合を除いて免疫療法を行う場合、現時点では積極的に「足をつかって」動いているのは患者さんサイドです。

免疫療法なんて効かないさ -言われる理由・・いやいや、ごもっとも-

さて、この免疫療法ですが、一般的にはこの治療法に対して否定的見解を持つ医師も少なくありません。その理由は大きく2つあると思われます。

まず、一つ目は、本来ガン細胞というのは身体の中で毎日数個といったように絶えず現れてきているそうですが、身体の免疫システムの中でそれらのがん細胞は見つかって排除されています。確かにそういったシステムがないかぎり、ヒトは一生のうちに頻回にガンにかかることになり、命がいくつあっても足りません。

このように、人間の免疫システムにはガン細胞を認識しやっつける能力があるのですが、臨床的に問題となっているガン細胞はこの免疫システムをかいくぐって生き延びた数少ないガン細胞の中の「勝ち組」なのです。

免疫療法は効かないと考える一番の理由は

「ガン細胞を認識できなかった、あるいは排除することができなかった免疫力でどうしてガンと戦えるの?」

ということです。一度負けている方法でまた戦いを挑んでも返り討ちにあうのは当然だ、ということです。

「竹槍で挑んで負けて、また竹槍で行くつもり?」

です。

もう一つの理由は、学術的にガンの治療として有効であるという証明、ここでもエビデンスという言葉が出てきますが、第4の治療法と言われておきながら、このエビデンスが弱い。だから、確立された治療の「3本柱」の仲間に入れて「4本柱」と呼ばせてもらえない。

現時点では、確立された「3本柱」を中心とした治療と第4の治療の間にはすぐには埋めることのできない大きな隔たりがあるのが現状です。免疫療法は大学病院等でも臨床研究として、その有用性を示す試みが現在進んでいるところですが、医療の世界は思ったよりも変化はゆっくりです。

医療の世界は「昔の常識、今は非常識」といったことは確かに存在しますが、基礎研究・臨床研究の結果が時間を経て、新しい確立した方法論として世の中に根付くのに要する時間は、最低でも数年?10年、あるいはそれ以上の年月を必要とすることは珍しくありません。ですから、仮に現在の治療の「3本柱」が免疫療法を入れて「4本柱」になる日が来るにしても、まだまだ先の話でしょう。

しかしながら、そういったあいだにも、「現時点で」何らかの治療を必要とする、あるいは何かを求めている患者さんが存在する。免疫療法の多くが「民間レベル」で行われている背景因子の1つです。

で、免疫療法ってどうなのよ?

「では、免疫療法ってどうなのよ?免疫療法は意味がないの?効かないの?」と言われると私はそうは思いません。ガン組織を顕微鏡で見てみるとガン組織の中、周囲にたくさんのリンパ球が集まってきており、腫瘍免疫を肉眼的に確認できます。なんかガン細胞に対して一生懸命戦っているように見えて、

「おおっ、免疫細胞たち・・お前ら、がんばってんなぁ・・」

とプレパラートを見ながら思うことも多々あります。胃ガンでガン病巣にリンパ球浸潤が著明な組織型がありますが、実際にリンパ球浸潤の認められないタイプよりも予後が良好であることが知られています。腫瘍免疫が、ガンに対して働いている為だと考えられます。

また、実際に免疫療法の効果を示す科学論文は出てきていますし、今後も次々と新しい報告が出てくると思われます。そして、何よりも医学全般で言えることですが、免疫療法も発展途上の科学であり、今後の発展に期待するところは非常に大きい分野だと思っています。

だたし、前述のごとく、現時点では免疫療法は確立された治療法でないため、私が知る限り、特に「ガンは切って治す」と鼻息の荒い外科医に免疫療法に対して否定的な見解を持つ医師は多いようです。これは、多くの医師が臨床の場で体験する免疫療法の多くは、抗ガン剤、放射線治療、時に大きな手術で免疫系が痛めつけられた後に行われることが多いため、免疫療法の本来の効果を学術的に確認しにくかったり、実感する機会が殆ど無いことも理由の1つでしょう。

私自身は、そもそも人体の免疫システムは、自己を守るための防御システムであって、攻撃システムではないと以前より思っていました。従って、免疫力を高めるということは防御力を高めることであり、攻撃力を高めることではない。ですから、手術後に再発予防として行う補助療法こそが、本来の免疫療法の最も適した用い方であろうと思っていました。

しかしながら、最近の報告を見ると確かに塊として出てきた再発ガンが免疫療法により縮小したり消失した患者さんがおられるのも事実です。治療成績は病状に対する「効果」の基準を甘くした長期不変状態などを含めて「15%〜30%」くらいといわれています。効果の基準を甘くした報告内容も評価したのは、「休眠療法」的な効果、つまりガンとの「引き分け状態」も治療効果に含めて良いと私は考えているからです。

当クリニックで提供している、免疫療法の1つである自己がんワクチン療法は、筑波大学の臨床研究では高度悪性度脳腫瘍(グリオーマ)に対してソフトクライテリアで36%の何らかの有益な効果が確認されたと報告されました。まだ歴史の新しい治療法なので、他の臓器に対する効果は、今後のデータの集積が待たれる所はありますが、現状では、現行データを参考にしながら、治療法として選択するか否かを患者さんが決定することになるでしょう。

あくまで、補助療法的に使用するのが免疫療法の位置づけではないかと思いながらも、実際に免疫療法により腫瘍が縮小したり消失したりする事実が数は少ないものの存在するのを見ると

「免疫系には防御力だけでなく、奇跡みたいな攻撃力を期待してみてもいいんだなぁ・・」というのが私の最近の感想です。

せっかくやるなら無駄にしない-時として担当医と距離をとる-

免疫力を上げてガンを叩くというコンセプトの免疫療法に対して、現在のがん治療の「3本柱」はすべて免疫力に対して拮抗的に働きます。特に再発ガンに対して行われる、通常の抗ガン剤治療では顕著です。ですから、免疫力を上げることにより治療を行う免疫療法と、免疫を押さえてしまう通常の抗ガン剤治療とは両立しません。

多くの患者さんは「3本柱」治療で免疫系を痛めつけられたあとに、最後に4番目の免疫療法にたどり着くことが多いことは前述しました。何度もいいますが、一般病院の殆どは、通常治療の「3本柱」から抜け出ることはありません。

ですから、患者さんの担当医師が免疫療法に対して全く理解を示さない場合、入院して抗ガン剤治療を行いながら、外出して民間施設に免疫療法を行いに行くという、かたや免疫を押さえる、かたや免疫を高めようとする全く逆のコンセプトの治療法が同時に行われるという摩訶不思議な治療状況が生じたりします。主治医には

「抗ガン剤で何とかしよう。」

という信念があったためでしょうが、免疫療法と抗ガン剤治療の同時進行は患者さんがせっかく期待をかけて、高いお金を出して購入した免疫療法(免疫療法の代金については後述)という「商品」に上から免疫力をさげる通常抗ガン剤治療というドロをかけているようなものです。

そういった患者さんがどういった思いで免疫療法に希望を託したのかということが想像できない医師の人間性、治療コンセプトの違いに頭の回らない主治医には確かに大きな問題はありますが、それ以前に患者さんサイドが両治療のコンセプトの違いをきちんと理解して、「医師」に抗ガン剤治療はNO!と言えれば、このようなトンチンカンな治療は継続されなかったと思われます。

「トンチンカン治療は、患者さんに責任があるの?」

と思われるかもしれませんが、免疫療法が多くの場合、患者さんサイドからの申し出から始まる以上、自らの意志で選択した治療コンセプトを守ることも大切なのです。

また、せっかくやるならイヤな思いはしない-これまた主治医と距離をとることも-

また、免疫療法の結果が期待に添ったものとならなかった場合、「だからこんな治療をやめろと言ったじゃないか」だの「自己責任ですよ。」だの担当医師に言われるのも正直悲しいものです。というより、一番がっかりしているのは患者さんであるはずなのです。そこに追い打ちをかけるような言葉は言っちゃいけない。そういうときこそ、医師は

「何故、通常治療でない方法を患者さんが選んだのか?」

と、患者さんの想い・弱さを理解する立場であるべきですが、現実はそうでないことも少なくありません。患者さんが意を決して選択した治療法に至った過程を見ずに、結果を見るだけで頭ごなしに否定するのは、ドクターハラスメントに値するというのが私の見解です。ですから、免疫療法をおこなう場合には時として現在診て貰っている主治医が免疫療法否定論者である場合、一時的に距離を置く必要があることもあります。

ただし、主治医は患者さんの後々の病状の経過の中で、何らかの力になってくれる可能性も持っているため、主治医とはできるだけケンカ別れはしない、良好な関係は維持したままというのが理想ではあるのですが・・・。病院数の比較的確保された都市部では主治医や病院を変えることは比較的容易なことかもしれませんが、地方では、難しいことが多いようですから。

「私の住んでいる地域には、肺癌を見てくれるお医者さんが1人しかいないんです・・・主治医の先生の気分を損ねないで、主治医の先生の方針にない治療法をやってみたいのですが、どうしらた良いですか?」

といった相談が実際にあったりします。その時は、主治医の先生がどのような方なのか、どういった考え方で治療を勧めている方なのか、柔軟性はあるのかといったことを、もちろん患者サイドからの情報のみで判断せざるを得ないことが多いのですが、患者さんを取り巻いている状況の中で患者さんの望むことをどうすれば円満に進めることが出来るのか。患者さんと一緒に悩み・考えているのが現状です。

免疫療法-やはり抗ガン剤との併用はできないのか? -

本来、コンセプトの異なる抗がん剤治療と免疫療法は相容れることはできないと前述しましたが、何とか両者が共存・並び立つ方法はないのでしょうか?

もちろん証明されたものではありませんが、個人的には、「がん休眠療法」は免疫療法と両立しうると考えています。免疫療法はがん休眠療法とケンカしないと考えています。がん休眠療法は免疫系を抑制しない、というより腫瘍免疫を落とさないように抗がん剤の量を調節するため、免疫療法と共存でき、お互いが相補的に作用すると考えています。もちろん、科学的裏付けは現時点では十分でなく、今後の臨床データの蓄積が必要とされます。

免疫療法は強化トレーニングによるリベンジ療法

最近、特にプロ格闘技の世界で「リベンジ」という言葉をよく聞きますが、一度負けた相手にリターンマッチで勝つためにはそれなりの強化トレーニングが必要です。この強化トレーニングこそが、免疫療法を支える基本的方法論です。そして、その方法論にいろんなものがあるのですが、ボディービルなどの強化トレーニングにいろんなメニューがあるのに似ています。

トレーニングの内容としては、免疫細胞を培養して数を増やしたり、刺激を加えて活性化したり、ガン特異抗原を認識させてガンに対しての特異性を持たせたりといったことが挙げられます。

免疫療法-考え方は大きく分けると2つ-

「免疫療法をやってみたいのですが、いろんなモノがあって名前も難しくて・・・どれがいいのですか?」

と聞かれる患者さんは少なくありません。確かに下図に示すように免疫療法と呼ばれるモノを思いつくままに書き並べてみると、たしかに色々あります。

免疫療法の理解のためには、まずは全体像をつかむこと。それだけで理解はかなりスムーズになるはずです。すると、免疫療法は、大きく「ガンの狙い撃ち」をコンセプトとした「特異的免疫療法」と「とにかく身体全体の免疫力を上げてやれ、そうすりゃガンをやっつけられるはずだ」というコンセプトの「非特異的免疫療法」の2つに分類されます。

下図には2つに分類した後、それぞれの主だった方法論がズラっと並べられてはいますが、方法論の細かいところは必要に応じて後で知識を補充したり、詳細を見ていけばヨシという考え方でいいでしょう。最初は細かく1つ1つ覚える必要はありません。

しかしながら、こうやって分類すると体内の免疫力を上げると謳われるアガリクスなどの代替療法、また、温泉、岩盤風呂、お笑いなども、人体はリラックスするとナチュラルキラー細胞などの免疫細胞が活性化すると言われていますが、全て広義の非特異的免疫療法に含まれるといえるでしょう。

免疫療法

2大免疫療法-養子免疫療法とガンワクチン療法-

さて、免疫療法ですが、方法論として養子免疫療法とガンワクチン療法の2種類に分類されます。現在多くの民間医療機関で行われている、免疫療法は「養子免疫療法」です。

「養子免疫療法」というのは、リンパ球を患者さんから採血で取り出し、外部で培養して数を増やし、刺激を加えて活性化し、さらに場合によってはガン特異抗原を認識させガンに対しての特異性を持たせたリンパ球を、再度点滴で患者さんの体内に戻して、ガン細胞を殺傷しようとする療法です。自分のリンパ球を取り出して、外で立派に(?)育てる様子を「養子」に見立てたのでしょう。それで、「養子免疫療法」と呼ばれています。

もう一つはガンワクチン療法ですが、考え方は結核のBCGやインフルエンザワクチンと同じです。ガンワクチン療法は、ガン細胞の表面に特異的に発現するガン抗原を認識するように人(宿主)の免疫系を教育し、このガン抗原をターゲットとして治療しようというものです。分かりやすくいえば、「私はガン細胞よ。」と目印を持っているガン細胞を患者さんの体内の免疫細胞たちに覚え込ませ、ガン細胞だけを選択的に攻撃しようという治療法になります。

養子免疫療法とガンワクチン療法との大きな違いは、ガン細胞と戦う特殊部隊を体外から送り込むか、体内に特殊部隊生成所を造るかの違いです。体外から特殊部隊を送り込む「養子免疫療法」は必要に応じて繰り返し行う必要があります。一方、ガンワクチン療法は体内に特殊部隊生成工場があるようなものであるため、特殊部隊は常に体内で持続的に供給される状態になるため、養子免疫療法と違い、免疫細胞の補充を繰り返す必要がなく治療は基本的には1回きりで良いと考えられます。

免疫療法のがんワクチン療法は日本の大学でも臨床研究が開始され、進行中です。私は、今後、免疫療法は養子免疫療法からガンワクチン療法が主流になる方向へとシフトしていくと推察しており、ガンワクチン療法の今後の発展が大いに期待されるところです。

当クリニックでは、「自家ガンワクチン:(株)セルメディシン」を取り入れて、免疫療法を希望される患者さんに提供させて頂いています。 「自家ガンワクチン」は、 手術で摘出されたがん組織(手術摘出標本、約2g必要)からガンワクチン(ペプチド)を生成し、体内のキラーリンパ球を活性化します。

本療法は理化学研究所、細胞開発銀行元主任 大野忠夫博士のホルマリン、パラフィン固定組織からのがん抗原の抽出および誘導された CTL(cytotoxic T lymphocyte)によるvitro, vivoでの抗腫瘍細胞効果に関する基礎実験(Nature Medicine 1995)から始まり、筑波大学脳外科・泌尿器科、東京女子医大・脳神経外科での臨床治験から現在に至っている治療法です。

ホルマリン漬けでもパラフィン包埋ブロックでもOKなので、ワクチン作成に必要なガン組織は新たにがんの手術を受けなくても、以前の手術で摘出した患者さん御自身のガン組織が残っていればワクチン生成が可能というのが魅力です。(2007年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で固定した標本からのワクチン作製は世界の研究者に衝撃を与え、非常に高い評価を受けました。)

ですから、『ガンは切っても捨てるな、それが自分のガンと闘う武器となる。』です。

しかし、一度も手術を受けていない場合、ワクチン作成の原料となるガン組織がないもしくは少ない場合や、施設に保管してあるパラフィンブロックに余裕が無い場合(パラフィンブロックは公的財産でもあるため)は残念ながらワクチン作成ができません。

免疫療法の治療費をどう考えるか -免疫療法アリ地獄-

非標準治療である、免疫療法は正直お金がかかります。医療保険が効かないため、全額自費診療となり患者さんの経済的負担は無視できないモノになります。
具体的に数字を示してみましょう。
現在、民間医療機関で行われている、免疫療法の主流である「養子免疫療法」を例にとります。

さて、この養子免疫療法ですが、行う内容によって差はありますが、一回の値段が20万円〜35万円といったところが相場でしょうか。
1回/2週、6回を1コースとしている施設が多いようです。仮に1回の値段を30万円として計算すると3ヶ月で30万円×2回(1ヶ月分)×3ヶ月=180万円となります。1年続けると、180万円×4コース=720万円となります。

養子免疫療法は体外で細胞を培養するための設備、費用、人件費など治療提供側の苦労代がかさむためどうしてもコストの壁にぶつかるようです。ですから、養子免疫療法の値段設定は決して破格といったものではないのですが、患者さんサイドでは、養子免疫療法を提供する過程で生じざるを得ないコストの問題よりも、最終的に実際にお金がいくら掛かるかという点が一番問題になります。

あと、養子免疫療法の問題点は、患者さんがリピーター心理になるという点です。

「少しは効いているのではないか?ここで止めたら、もっとガンの進行が速くなるのではないか?だから、続けよう。」ということです。

免疫療法は患者さんサイドが求めて行われることが多いことは前述しました。
患者さん主導で始められることが多い治療法であるため、今度はその止め時が判断できない。しかも、それなりの値段を払っているモノだから、

「効いているような気がする、イヤ、効いてなくてはいけない。だから、もう一度。」
「2コースが終わった。あと1コースくらい追加した方がいいのではないかしら?」

など、こうして、「免疫療法アリ地獄」にはまっていくのです。

私のところに治療の相談に来られた患者さんには

「免疫療法アリ地獄にはまりましたね。そろそろ抜け出して次の治療に進みましょう。」

と背中を押してあげるのです。医師のひと言で、アリ地獄から抜け出るのは以外に簡単な印象を受けます。御自分で止めるタイミングを見失ってしまっているようです。

もっとも、医療は「商品」、患者さんは「消費者」と考えると「商品」に対しての「値段」は個々で感じ方が違うでしょう。ですから、年間700〜800万円の自費診療を高いと感じるか安いと感じるかは患者さん個人の、最終的には消費者のお財布の問題なのですが・・・ただ、貧乏性の私にはやはり、

「自費診療で年間800万円か・・・、それで絶対にガンが治ればなぁ・・」

どこか引っかかるなぁ・・・と言ったところです。

免疫療法の値段 -私の許容範囲-

免疫療法を望む方は次の3通りに分類されそうです。

  1. 現行の通常治療の効果がなく、「なにか他に治療法を」と求めてこられる方。
  2. 通常抗ガン剤治療の副作用で苦しんで「抗ガン剤は二度と使いたくない。」という方。
  3. 最初から通常治療以外の方法論を求める方。

いずれにせよ、患者さんがどのような思いで自費診療の免疫療法にお金を払ったのかという、その気持ちを汲んで、支払ったお金が無駄にならないように考えてあげることは大切なことだと考えます。

「自家ガンワクチン」治療にかかる費用は、現在150万円です。養子免疫療法と違い、投与は1回きりが基本ですから、これ以上はかかりません。ここで、誤解のないようにいっておきますが、私は自家がんワクチン療法の方が養子免疫療法に比べて効果・成績が絶対的に優れているというつもりはありません。あくまで、患者さんが免疫療法を希望されたときに、私の中では、金銭的な折り合いが納得しやすいということ(コレが一番かな)、一回きりであるため免疫療法アリ地獄に陥らないこと、そして、その効果を見ながら、がん休眠療法など次の治療につなげていけるという、治療を進める上でのメリットを感じているだけのことです。

また、当クリニックの外来治療の中軸であるがん休眠療法は、患者さんの腫瘍免疫を抑制しない、というより腫瘍免疫を抑制しないように抗がん剤量を調節するため、ワクチン療法のために患者さんが支払った“150万円”というお金を無駄にしないであろうとも思っているのです。

さて、自家ガンワクチンの150万円という値段ですが、私は次のように考えることで自分の中で免疫療法の「適正価格」として折り合いを付けています。

『自家ガンワクチン療法で残念ながら効果が診られなかったとしても“150万円”の“中古車を事故で廃車にした”と思えばいい。“800万円のベンツの新車を事故で廃車にした”となると悲しくて割り切れない。もちろん、150万円の中古車でも悲しいけれど、まだ新車ベンツに比べれば割り切れる。』

自家ガンワクチン療法の値段“150万円”は患者さんに提供できる自費診療の値段として私の中で上限ギリギリ許容範囲にあるのです。

ワクチン治療 -治験参加という手もあるが・・-

免疫療法につきまとう費用の問題を解決する方法として、大学で行われている免疫療法の臨床研究に参加するという手があります。実際に臨床研究に乗ってしまうと、免疫療法にかかる費用は大学持ちですから。

「なんだ、それなら大学ですぐにやって貰おう」

と考えるのは早計です。世の中、そんなに甘くはないのです。臨床研究の場合、患者さんの希望・意志で自由に臨床研究が受けられるものではありません。大学で臨床研究を行う場合、倫理委員会という「お作法」を通した上で、臨床研究を行う側はプロトコールに沿って患者さんを研究に組み込んでいきます。つまり、治療する患者さんを選ぶのは大学側で、そのためには臨床研究参加のための審査を受ける必要があります。

「臨床試験に参加します。」

と手を挙げてもそこから“オーディション”がはじまり、一次審査、二次審査・・と審査を得て、合格して、そこで始めて「やりましょう」、となるのです。ここで、

「審査に合格したから、免疫療法がタダでできる。」

と喜ぶのはまだ早い。話にはさらに続きがあります。

民間医療機関で免疫療法を行う場合、多くの患者さんは「免疫療法だけ」やっているという方は少ないのです。抗ガン剤や分子標的薬剤、ホルモン剤といった通常治療やサプリメントを併用して行っていることが普通です。

しかし、これではいくつかの治療行為を平行して行っているため、免疫療法の純粋な治療効果を診ることが難しくなります。民間医療機関で免疫療法を治療の選択枝の1つとして行う場合は、いくつかの治療が併用されていてもあまり問題とはなりませんが(ある意味個人の自由ですから)、大学の臨床研究となるとそうは行きません。臨床研究参加のために、現行の治療の全ての中止や、臨床研究の呈示したメニュー以外の治療はダメということを求められます。

大学の免疫療法の臨床研究は“免疫療法の純粋な治療効果を明らかにする”というのが目的ですから、その施行にあたりいろいろな“縛り”があるのです。こういった“縛り”は臨床研究が文字通り“研究”である以上、ある程度仕方ありません。ですから、臨床研究に伴う“縛り”を十分理解し、研究施行側の話をじっくりと聞いて、しっかり吟味した上で最終的に参加するかどうかを決定するということになります。

臨床研究-どうして最後の手段なの?-

患者さんのご希望もあり、ある大学の免疫療法の臨床研究に参加の問い合わせをしたところ、一通りの標準治療をすべて行った上で「最後の手段」としてなら参加が可能ですという旨の御返事を頂きました。免疫療法を「最後の手段」としていては、いつまで経ってもその純粋な効果を確認することはできないのではないでしょうか?

もし、免疫療法の純粋な効果を客観的に見たいのなら、抗ガン剤、放射線療法を行う前に免疫療法を行いその効果・反応を見た上で次の治療法を検討する方がいいのではないでしょうか。私見ですが、再発ガンに対する治療は、必ずしも急ぐ必要はないと思っていますから、最初に免疫療法を行う時間的余裕は十分にあると感じています。今後、免疫療法が確立した治療法として市民権を得るためには、こういった治療の順番に配慮することも必要と思われます。

もっとも研究者もそんなことは百も承知で「どうして、抗ガン剤や放射線治療で免疫系が痛めつけられる前の段階で免疫療法をやらせてくれないんだ・・・。抗ガン剤、放射線治療はその後でいつでもできるだろう・・・倫理委員会の馬鹿野郎!」という研究担当者の本音が聞こえてきそうです。

さて、いろいろと書きましたが、免疫療法も治療の選択枝として考えたい、だけどお金はあまりかけたくないという方は、とりあえず臨床研究参加に“手を挙げてみる”というのは手段の1つです。しかしながら、繰り返しますが、臨床研究故の“縛り”があることを理解した上での、行動ありき、となります。免疫療法の話は、とりあえずこんなところで・・・