がん難民
2007年7月
“がん難民”とは
最近、“がん難民”という言葉をよく耳にするようになりました。
“がん難民”という言葉は、以前はがんの標準治療を受けられない人を意味していました。日本のメディアはいまだにそのようなとらえ方をしています。しかしながら、現在、治療ガイドラインの作成や、がん拠点病院の設立などにより、多少の地方格差は存在するとはいえ、標準治療は日本全国津々浦々までほぼ均等に広がっています。そういう意味では、今の日本では、標準治療が受けられないがために“がん難民”になっている患者さんはいないと言って良いでしょう。
現在の“がん難民”の発生は、がんの治療が受けられないために発生するのではなく、がん治療の現場がかかえる構造的問題点に起因するものです。
私は、“がん難民”を「治療方針に悩んだり、治療をしてくれる医師や病院を探し求めて、途方に暮れながら彷徨っているがん患者さんたち」と定義しています。
(2007年4月:三好 立)
“がん難民”のパターン分類
私は、患者さんとの面談を通し、“がん難民”の発生パターンを以下の4つに大きく分類しました。
- 標準治療ではもうやれることはないと見捨てられ“がん難民”へ
- 標準治療で、心身ともにボロボロになり“がん難民”へ
- ドクターハラスメントで傷つき、医師・病院のもとを飛び出て“がん難民”へ
- 情報に溺れて、なにから手を付けていいか分からず“がん難民”へ
自分は“がん難民”ではないかと思われている方のほとんどは、上記のどれかに属しているのではないでしょうか。 この中でもパターン1とパターン2が多く、この2つで全体の大半を占めます。
1.標準治療ではもうやれることはないと見捨てられて“がん難民”へ
・現在、日本で標準的に行われているがん治療は、エビデンス(根拠)に基づいた標準治療と癌性疼痛などの終末期のケアを目的とする緩和医療の2つに大きく分けられます。
・ところが、現在の日本のがん治療では標準治療と緩和医療の間に連続性がありません。そのため、両者の間にぽっかりとスキマができた状態になっています(図参照)。
・“標準治療”とは大学病院、がん専門病院、総合病院などの大病院で行われている、手術・抗がん剤治療・放射線治療の3本柱を中心としたものを指します。それらの病院で“標準治療”を使い果たした時点で、患者さんは緩和医療を勧められます。
標準治療を使い果たし、もう治療はありませんと見放され、“がん”が身体に残ってはいるものの、まだまだ元気な患者さんが、このがん治療の構造上のスキマで治療を求めて“がん難民”となっているのです。
2.標準治療で、心身ともにボロボロになって“がん難民”へ
ここでいう、“標準治療”とは、抗がん剤治療によるものが圧倒的多数を占めます。
抗癌剤の副作用がひどく「もう、抗がん剤治療はこりごりだ、もう二度とやらない。」
↓
以降の抗癌剤治療拒否=標準治療がない=無治療
↓
“何も治療しない”という状態の精神的重圧に耐えられない。
↓
「他に何か治療はないのか」と治療法を求めてスキマを彷徨う。
↓
“がん難民”の誕生、となります。
3.ドクハラで傷つき、医師・病院のもとを飛び出て“がん難民”へ
医師の心ない言葉の暴力や態度で患者さんが傷つくことをドクハラ(ドクターハラスメント)といいます。 言葉や態度というのは、医師対患者の信頼関係、人間関係を構築する上で基本となるものですが、ドクハラで傷つき、主治医のもと・病院を飛び出て“がん難民”になるパターンがあります。
このパターンの一番の問題点は“主治医不在”の状態になってしまうことです。
ドクハラの例
- ○○歳、十分でしょ?まだ生きたいの?
- あなたの癌は抗がん剤では治らないけど、治療は抗がん剤治療しかないからとりあえず入院して抗がん剤を使用しますよ。(もう少し言い方があるでしょう)
- 肺癌でしょう、今まで長い間タバコ吸っていたんだから自業自得だね。
ここでも彷徨う“がん難民”の誕生です。
4.情報に溺れて、なにから手を付けていいか分からず“がん難民”へ
情報化社会といわれる今日、情報収集は患者さんにも出来ます。
- インターネットで「がん」と検索したら約16,000,000件もヒット、見きれない。
- 手術はしたくない、サプリメントで治ったという記事を読んだ。
- 「抗癌剤で殺される」という本を読んだら、抗癌剤を受けたくなくなった。
- 「手術」という方法をとるか「放射線+抗癌剤」をとるか調べれば調べるほどわからなくなった。
ところが、「もともと医学の知識をもっていない患者さん」は収集した情報の活用法が分からず、玉石混合の情報に溺れてしまい、“がん難民”になってしまうのです。 治療法を何ヶ月も決められず、放置してしまい、私のところに来られたときには、かなり病状が進行していた患者さんがおられます。
また、情報に振り回される患者さんの周りには、“善意の野次馬さん”たちがいることも。特徴の1つであることがあります。失礼な言い方だと怒られるかもしれませんが、“がん”にかかられた患者さんの知り合い、知人には“野次馬”的な人たちがいるのです。どこそこの誰々が“がん”になった、「それならいいことを教えてあげなきゃ。」となります。
「サプリメントは○○が絶対いいよ、いまの××は効かないよ。」
「そんなに頻回に、胸の写真をとると“がん”が悪くなるよ。新しい“がん”もできちゃうかもよ。」
「どこそこのダレさんは、手術しなくても治ったらしいよ。ホントは、手術しなくてもいいんじゃないの?」
「△△療法だったら絶対治るってよ。」
などなど・・時として医学的根拠の全くないガセネタが氾濫状態となります。第三者として少し離れたところから見てみると、そういった情報を持ち寄る人たちはやっぱり“がん患者”さんに群がる「野次馬」にしか見えません、しかしながら、そこには悪意はなく、純粋に“善意”によるものですから、これらの人たちは“善意の野次馬”さんなのです。“善意”によるものですから、ありがたいモノなのですが、その善意により、“がん難民”が発生していることもあるのです。野次馬さんたちの言うことには耳を傾けない、距離を置くというのが対策の第一歩だと思うのですが、それが出来ないから“がん難民”になっちゃったのですけどね。
“がん難民”総括
そもそも、“がん難民”という言葉が生じる現実自体に、今の日本のがん治療の現場の抱える構造的問題が根本にあること、がん治療そのものに大きく欠けたものが存在することを示唆しています。“がん難民”という言葉の広がりつつある日本のがん治療は大きな転換期にさしかかっており、がん治療を総合的に見つめ直す必要を迫られています。
銀座並木通りクリニックは “がん難民の羅針盤”となれるよう1人でも多くの患者さんに対応していきたいと考えています。