がんという病気は徐々に元気度が下がっていくという側面があるため、思うように動けなくなった、足が重い、外出しなくなった、歩くのがきついから家で寝てばかりいる・・・等々、総じて“足腰が弱った”という表現が当てはまる患者さんが少なくありません。
ご家族も、家でじっとしている患者さんを見て、そのうち寝たきりになってしまうのではないかしら?と心配になってしまいます。
「どうにかなりませんか?」
「何か良い方法がないでしょうか?」
と相談を受けることはたびたびです。
このように、がんの闘病生活の中で、“足腰が弱くなってきた。”という病状は、比較的一般的なことではあるのですが、そうした中で“何かやれることはないか?”と感じている患者さんやご家族には、室内で簡単に実践できる起立訓練を当院では紹介しています。
では、そのやり方について説明しましょう。
用意するものは椅子が2つ。
これだけです。
まず、写真のように椅子を並べます。患者さんは後ろの椅子に座って、前の椅子にはご家族が座ります。
患者さんは前の椅子の背もたれに両手をかけます。
この際、前の椅子に座っているご家族の方には2つの役目があります。1つは、患者さんが手をかけている椅子がグラグラ動かないようにするための“重し”としての役目。そしてもう一つは、訓練を行う患者さんの“見守り・補助”としての役目です。
まずは体感してみましょう。

図中@のような準備体勢ができたところで始めます。
まず「1.2.3.4.5」とゆっくり数を数えながら立ち上がってみましょう(図@〜B)。最初はしっかり声に出して、5まで数えてください。
スピードをつけて、早く立ち上がってはダメです。スピードを競うものではありませんので。あくまでゆっくりです。そうすると、両脚のいろんな筋肉に負荷がかかっていることを体感することができるはずです。特に大腿部の筋肉に力がいることが分かります。とにかく、ゆっくりがポイントです。
そして、立ち上がった後、一呼吸おいて、今度はまたゆっくりと「1.2.3.4.5」と5つ数えながら、座っていきます。
ここで、ドスンと一気に座ってしまっては、これまたダメです。ここでも5つ数えながら、ゆっくりと腰を下ろしていきます。そうすると、立ち上がる時と同様に、腰を下ろしている最中にも両脚の様々な筋肉に負荷がかかっていることが実感できるはずです。
これらの動作はお尻の大臀筋、腿(もも)の前にある大腿四頭筋や後ろのハムストリングス、脛(すね)の前の前脛骨筋、後ろの腓腹筋・ひらめ筋など“足腰”に関係した筋肉全てを鍛える運動です。
さらに、このゆっくりと立ち上がって座るの一連の動作を1回として、朝と夕方に50回ずつやってみましょう。この訓練動作50回に要する時間は20分くらいですから、朝・夕2回合わせて40〜50分程度の訓練となります。もちろん、余裕のある方はもっと回数を増やしても構いませんし、逆に体力的に難しい方は、ご自身の体力にあわせて回数を減らして下さい。
いずれにせよ、起立訓練は、患者さんの日常生活動作をより長く保つことの一助になるはずです。
ここで、“足腰の訓練だけでいいの? 腕や他のところの訓練はしなくてもいいの?”という問いに対しては、積極的にはその必要ありませんとお答えします。なぜなら、病態の進んだがん患者さんにおいても、上肢(腕)は食事の時に茶わんを持ったり、箸を使ったり、洗面したりと、なんやかんや日常生活の中で使用しているため“足腰”と違い、機能低下は一般的には認めません。
ですから、日常生活動作維持のために一番重要な“足腰”にのみ重点を置くのです。
また、複雑な筋力トレーニングメニュー等は進行がん患者さんにおいては、その実践そのものが現実的ではありません。
簡単であることが重要です。
基本コンセプトはシンプル・イズ・ベスト。
起立訓練のみで十分です。

