医食同源という言葉はご存じだと思います。中国の漢方医療からくる考え方で、生きることの原点・健康の源は“食”であるということです。確かに経済の豊かさに伴って、食生活も豊かになった飽食国家日本においての、暴飲暴食、栄養の偏った食習慣は、最近流行りのメタボリックシンドロームの原因ともなり、成人病増長の原因になっています。「飽食」は「崩食」ではないかとも思われます。
“がん”に限らず、心疾患、脳血管障害といった様々な病気の予防に関連しているため、“食”のあり方を考えることはとても大切なことです。 そういいながら、私の“食生活”は肉魚好き、野菜・果物大嫌い、お酒大好きで「崩壊」していますが・・・
さて、“がん”の食事療法というモノがあります。食事療法には、玄米食や自然食品の摂取を中心にしたり、動物性蛋白質の摂取を制限したりといったモノをよく目にしますが、その食事療法により人間に本来備わっている免疫力を高めたり、自然治癒力を高めることによって“がん”を治そう・予防しようというものだそうです。
自然治癒力とは、例えば切り傷が自然に治っていく、風邪を引いても自然に治っていくといったように、病気や傷を治す自らの中にある自然な機能のことをいいますが、その機能を食事により高めることで“がん”を叩こうというのが食事療法のコンセプトです。
さて、がん治療に食事療法を取り入れている患者さんにお伺いすると、
- “がん”そのものを食事療法で治療しようとする患者さん
- “がん”を手術などで治療した後に、体質改善・再発予防のために食事療法を行う患者さん
と大きく上記2パターンに分けられます。
さて、既に出来上がった“がん”の塊が、食事療法で治るか?消えるか?無くなるか?
結論。まず、ありえません。
“がん”は遺伝子が様々なストレスで壊れて正常細胞が変化したモノです。細胞を精密機械の時計仕掛けにたとえたら、“がん細胞”は、こわれた時計仕掛けのようなものです。すこし、難しい話になりますが、正常細胞ががん細胞になったあと、がん細胞の分化の方向性は、より正常細胞の形質・形態から離れる向きへと進みます。
宇宙が、ビッグバンという点から生まれて広がり膨張し、乱雑さに進むのと同じで、この方向性に逆はありません。ですから、がん細胞分化の方向性を逆走し、元の正常細胞に戻るという細胞の自然治癒の方向はありえません。宇宙の法則です。
また、仮に食事療法で、身体の免疫能が上がって、壊れた時計仕掛け、“がん細胞”への攻撃能力が高くなったと仮定しても、それなら、第4の治療法といわれる免疫療法はもっと“がん”に対して著効するはずです。食事療法で“がん”の塊が消えたら誰も苦労しません。ゆめゆめ、食事療法だけで「塊」としての“がん”が“消える”“無くなる”と過度の期待をしてはいけません。
誤解の無いようにいっておきますが、食事療法を取り入れてはいけないといっているのではありません。人が病と闘って行くためには、正しく食べて体力を付けて調子を整える、といったことは基本です。
「今までの、食事の内容を反省し、見直してみようと思います。」
それはそれで、良いことです。思い立ったが吉日です。やりましょう。しかし、食事療法以外の治療法を否定して、食事療法だけでは“がん”は治りません。 がん治療の全体の中の補助的な方法論の1つとして位置づけて行うべきです。
食事療法に関していえば、個人的にはアンチエイジング、スローエイジングに通じる考え方としてとらえています。ですから、がん発生予防、術後の体質改善あるいは術後再発予防を目的として食事療法を取り入れることはいいことだと思います。
ただ、食事療法の中には内容のかなり厳しいものもあるようです。肉魚ダメ、塩っ気ダメ、乳製品ダメ、お酒ダメ・・・野菜は有機野菜以外はダメ(中国産野菜ナンテとんでもない!)、など、私なんか何を食べたらいいんだ?といった内容です。
「食事療法ってどう思います?」
私の顔色を伺いながら、こういった質問をされる患者さんには、ピンときます。食事療法を試しにやってはみた、あるいはやろうとしたものの、実践内容の厳しさに
「こりゃ、たまらん。続かねーや。」
とでも感じたのでしょうね。
「やっても良いけど、あまり無理するとストレスになりますよ。ストレス溜まるとかえって身体に悪いんじゃないですか?あれ、ものによっては、結構内容がしんどいですよね。食べ物でストレス感じるのもつらいでしょ?できる範囲でやったらいかがです?」 「そうなんですよ。それに、そうですよね、そうですよね。やれる範囲で良いですよね。」
“この食事療法が実践できないと“がん”は治らないのかしら?”といった患者さんの、どこか取り憑かれたような心理がベースにあります。手綱をゆるめる私の言葉に患者さんのほっとした心情が見て取れます。無理は禁物。やれる範囲でやること、そしてバランスよく食べること、食事療法で大切なのはそんなところだと思います。食事療法とまでいかなくとも食習慣は継続できなくては意味が無いのですから。
長寿姉妹でテレビに出演していた、金さん、銀さんを覚えておられる方もおられるでしょう。確か、マグロの刺身が好物とかで、百歳を超えたお歳で美味しそうに食べていたのを番組で見たのを思い出します。私が診ている患者さんには“がん”の既往のある90歳を超えた、いまだに肉魚が大好きな方もおられます。おいしいモノを食べながら長生きしている人は沢山いるのです。
がん治療における苦行のような食事療法の効果のほどは不明ですし、行うことを頭から否定もしません。やれる人は、実践して下さい。でも、できないからと悲観しないこと。そして、嗜好に関しては無理をしないこと、苦行僧ではないのだから。
『美味しくご飯を食べられる時間を可能な限りに長くする』のを治療目標にされた患者さんがおられます。“美味しく食べる”は医療の目的“良い時間を一番長く”に通じます。“美味しく”のところに苦痛・ストレスを感じるのなら止めちゃいましょう。
好きなものを、美味しく、バランス良く食べて長生きしている人は沢山いますよ〜。ゝ(^.^)

