連載「がんの休眠療法」第4回 この転移がん、切るべきか切らぎるべきか…|がんの外来治療(腫瘍内科・緩和ケア内科)と内科・外科・呼吸器科の銀座並木通りクリニック

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連載「がんの休眠療法」第4回
この転移がん、切るべきか切らぎるべきか…

肺がんの副腎転移で手術後休眠療法を導入した症例

今回は肺がんの副腎転移巣に対して手術を行い、その後休眠療法を導入した1症例をお見せしたいと思います。患者さんは、主治医から「もう治療法がない」と言われ休眠療法を希望されお見えになった50歳代の方で、6年前に右肺腺がんの根治手術を受けられています。術後2年目頃から、腫瘍マーカーのCEA(正常値5ng/mg)が徐々に上昇。白金製剤+タキサン系、白金製剤+ジェムザールなどの抗がん剤治療を行うも腫瘍マーカーは上昇を続けました。全身検索しましたが、この時点では責任病巣が不明でした。

腫瘍マーカーは上昇しているので、身体のどこかにがんは潜んでいるはずです。腫瘍マーカーが先行して上昇して、しばらくした後で転移巣が確認されるということは、時折経験します。抗がん剤治療の反応が悪いため、イレッサという分子標的治療薬を使いましたが効果なく、CEAは100ng/ml、200ng/mlと上昇を続けます。そして、肺の手術から約4年が経ったところで、左副腎の転移巣が確認されました。

抗がん剤の内容を変えて治療が継続されます。カルセドやTSI、さらには血管内治療も加えましたが、CEAの上昇は止まらず1400ng/mlを超えました。副腎転移巣が指摘されてから2年、腫瘍は左腎、牌臓、膵尾部に浸潤して、鶏卵大くらいの大きさになっていました(図1)

転移がんでも根治が期待できる条件

さて、そうしたなかで、持参されたCT画像を見たり病歴を聴いているうちに、
「あれ?これって……手術アリじゃね??……転移がんだけど手術で治るかも!
……やっぱり手術が先だ!休眠療法はやるにしてもそのアトだ……」
と思われるケースでした。

一般に肺がんの副腎転移に手術適応はなく、抗がん剤治療が一般的です。肺がんの副腎転移に限らず、転移がんの治療は抗がん剤による全身治療が選択されることがほとんどです。そういったなかで、少ないながら転移がんでも手術あるいはそれに準じた観血的治療法で根治が期待できる条件があるので列挙します。

「この転移がん、切るべきか切らざるべきか」デス。

  1. 原発巣が手術や他の治療で十分にコントロールされている。
  2. 転移巣が見つかるまでの時間経過が比較的長い(たとえば3年とか)。
  3. 単一臓器で転移巣の数が少なく(3個くらいまでとされる)、経過観察のなかで転移病巣数が増えてこない。
  4. 年齢が若いなど、手術による侵襲に十分に耐えられるだけの体力がある。
  5. 手術による利益がリスクを明らかに上回る。

など、大雑把にですがこんなところです。これらの適応条件を支える十分な腫瘍学的理論・根拠はありますが、誌面の都合上省きます。そして、これらの条件下でだいたい30%、3人に1人に根治が期待できます。

根治の難しいとされる転移がんでこの根治率は非常に高いと言ってよく、他の治療法での追従は不可能です。抗がん剤しかないと言われていたり、怪しげな治療にはまり込んでいる転移がんの患者さんで、どうもこれらの条件に当てはまりそうだという方は、治療戦略をもう一度練り直すべきです。

諸々の理由から外科的手術が第一選択と判断

本症例を検証してみると、今後も標準抗がん剤治療の効果は望めそうにないこと、原発巣はコントロールされていること、左副腎転移巣が確認されるまでの時間が約4年と長く、転移巣発見から2年の間に他に転移巣が出現してこないこと、年齢が若く体力的に問題がないこと、副腎転移は左腎、膵尾部、脾に浸潤しているが一塊に合併切除が可能であること、腕のいい信頼できる外科医を紹介できる――といった諸理由から外科的切除が第一選択と判断しました。間違っても、自由診療で行っているその他の治療法や代替医療などではありません。仮に導入するにしても、全然後回しです。

術後、腫瘍のボリュームの絶対量が減少したため当然のごとく腫瘍マーカーは一気に下がりました。ただし、本来は根治を期待したわけですから正常値になって欲しかったというのが本音です(図2-(1))。術後2カ月後のCT検査で大動脈周囲リンパ節転移が確認されました。腫瘍マーカーもまた、徐々に増加傾向にあります。期待した30%には入りませんでしたが、治療戦略の考え方は後から振り返っても問題はありません。腫瘍総量が減少できたことを前向きに捉えます。そして、次の手を打ちます。

治療は終わりではありません。このタイミングで休眠療法を開始しました(図2-(2))。
肺がんで比較的効果を認める、TSIとジェムザールのコンビネーションです。予想以上に反応しました。標準量で効かなかったクスリを休眠量で使用すると、反応があることをときどき経験します。TSI120mg/body/隔日投与+ジェムザール200mg/body/週、どちらの薬剤も以前には標準量で効かなかった薬剤です。どんな標準抗がん剤治療にも反応しなかったのに、腫瘍マーカーはどんどん下がっていきます(図2-(2))。

転移リンパ節も小さくなっていきます。副作用はまったくありません。手術の後遺症もありません。現在、元気に外来で治療継続中です。

休眠療法 ― あくまで治療戦略全体の選択肢のひとつ

今回紹介した方のように、転移がんで治療法がないと言われたにもかかわらず、改めて見直すと外科切除の選択肢が残されていたりします。転移がんは手術適応がまったくないと思われているのでしょうか?

最近、似たような患者さんを続けて経験したため、同様の病態で治療戦略の見直しが必要な患者さんが他にもいるのではないかという思いが、今回の症例呈示になりました。私は現在、休眠療法を中軸とした治療を転移がん・進行がんといった根治の難しい患者さんに提供していますが、何でもかんでも休眠療法で対応しているわけではありません。1つの方法論に固執してがん治療を論じることは危険です。患者さんは十人十色。それぞれ個々の病態・ニーズに柔軟に対応する、それが本来のオーダーメイドと呼ばれる医療のあり方でしょう。

月刊誌「統合医療でがんに克つ2008.10vol.4」より

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