がん性腹水と腹水濾過濃縮再静注法(CART)

2011年12月

1.がん性腹水-抜くと弱るは本当か?

がん患者さんからの相談で多い内容の1つががん性腹水です。

がん性腹水とは消化器がんや婦人科がんの領域で多く見られる、がんの進行に伴いお腹に水が溜まってくる現象です。腹水がどんどん溜まってくると、そのうち患者さんはお腹が張って苦しくなってきます。

がん性腹水の対処法は、利尿剤投与が第一選択です。
お腹に溜まった水分を、“オシッコ”として体の外に出してやろうという考え方になるのですが、この利尿剤、効く患者さんには効くが、効かない患者さんには効きません。

その他、腹水コントロールの方法として水分制限、塩分制限、ステロイド投与など、教科書的にいくつか挙げられるものはあるものの、結局は効果が無いことのほうが殆どです。

さて、いろいろ試してみても腹水が軽快しないのであれば、腹水が溜まって苦しいのであるから、物理的に腹水を取り除けば楽になると考えるのは当たり前だし、実のところその通り。

ところが、
「お腹の水を抜いて下さい。」
と主治医に頼むと
「腹水を抜くと栄養分も抜けるから体力が弱る。」
と言われ、結局抜いてもらえないというのは、よくある話です。

さて、ここで。
“腹水を抜くと弱るは本当か?嘘か?”
答え・・・

「嘘です。」

たしかに、腹水を抜くことにより、体力が落ちて衰弱が進む患者さんがいることは事実ですが、全ての患者さんがそうではありません。
腹水を抜いて、逆に元気になる患者さんも沢山おられます。
それを見極めるのは医師のスキルです。

当院では、特に
“お腹が空いてご飯を食べたいのに、食べ始めるとお腹が張って、食べられない。”
という患者さんにおいては腹水穿刺を積極的に行うべきと考えます。

これは、溜まった腹水による圧迫で、食べ物が胃腸の中に入っていくことを邪魔している状態です。
腹水で困っている患者さんで結構多いパターンです。

生物が生きていくのに食欲は一番根源的なもの。
だから、空腹感のある患者さんは、少なくとも身体が生命活動ために“食べ物”を欲している状態です。
患者さんの“お腹が空く”というのは、大切な臨床症状を意味するのです。

「抜くと弱る」と言われる理由は、腹水の中にアルブミンなどの栄養分、グロブリンなどの免疫関連物質が入っているために、

腹水を抜く
   ↓
栄養分が少なくなる・免疫が弱る
   ↓
全身衰弱
   ↓
死ぬ

というステレオタイプの図式で全ての物事を考えている医師が多いためです。

腹水を抜くと、ご飯が食べられるようになる。ヒトは、口から栄養を採るようにできている。口から、ご飯をとれている限り、摂取量が多少減ろうが、医師が想像しているほど栄養状態は悪くなりません。
ヤッパリ、食べるってスゴイことなのです。

仮に栄養状態が悪くなったとしても、どんどん悪くなることは少なく、それなりの状態で維持されます。
血液検査の総蛋白、アルブミン値もソコソコ安定した値を示して落ち着くことが殆どです。

お腹の症状が取れると
食事ができる。
足取りが軽くなる。
笑顔がもどる。
QOLもADLも上がる。

「抜くと弱る」と言われたのに、メリットの方が遙かに多いのです。

もちろん、最終的な腹水穿刺の適応には医師の診察が必要です。
しっかりと医師に相談してください。

2.CART(腹水濾過濃縮再静注法)について

CARTとは、
Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy
の略語です。

簡単に内容を説明すると、穿刺した腹水をフィルターで細菌やがん細胞等を除去し、さらに濃縮器で余分な水分を取り除き、アルブミンやグロブリン等の“栄養分”を再び点滴で患者さんの体内に戻す緩和的措置のことをいいます。

腹水濾過
   ↓
濃縮
   ↓
静脈注入

言葉をそのまま並べると、腹水濾過濃縮再静注法となります。
言葉を分解してみると一見難しそうな名称も理解しやすいでしょう。

つまり、抜いたら栄養分・免疫成分も一緒に抜くため、“弱る”といわれる腹水穿刺に対して、それなら、抜いた腹水中の“身体にいいもの”はもとに戻してやろうじゃないかというコンセプトになります。

このCARTという手技、最低1泊2日の入院措置が原則になっています。
当院では患者さんを選択して、外来にて施行することがありますが、原則入院です。
細かいことは省略しますが、全行程はそれなりに手間と時間がかかりますので、通常は1日がかりの処置と考えて下さい。
また、月に隔週2回までで保険適応になっています。

詳しくは各医療機関にお問い合わせください。