特集「がんの免疫療法」-「自家がんワクチン療法」の、最新の知見と展望-|がんの外来治療(腫瘍内科・緩和ケア内科)と内科・外科・呼吸器科の銀座並木通りクリニック

特集「がんの免疫療法」
「自家がんワクチン療法」の、最新の知見と展望

昨年(2012年)11月17日、第9回がんワクチン療法研究会学術集会が筑波大学にて開催されました。この会は、東京女子医科大学脳神経外科、筑波大学脳神経外科、セルメディシン株式会社が中心となって立ち上げた研究会で、今年も活発な討議が行われ、多くの医師の免疫療法に対する興味の高さを伺い知ることができました。

今回、患者さんの情報選択の一助になればという思いで、自家がんワクチンについての簡単な解説と、本研究会で提示された最新の知見・展望を紹介します。

自家がんワクチン療法とは

自家がんワクチン療法は理化学研究所ジーンバンク・細胞開発銀行に蓄積された高度の培養技術を生かした細胞療法の開発に端を発し、東京女子医科大学、筑波大学の研究グループでの臨床試験を経て現在に至っている治療法です。理化学研究所は、ご存知のように、日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、生物学、医科学などに及ぶ広い分野で研究を進めている世界最先端の研究機関です。

それでは、自家がんワクチン療法について簡単に見てみましょう。

図1は、同療法の流れについて見たものです。人間の身体の中で、がん細胞を殺すのに活躍しているのがリンパ球ですが、なかでも中心的な役割を担っているものの1つがCTL(細胞傷害性Tリンパ球)です。自家がんワクチン療法は、このCTLにがん細胞を敵と認識して攻撃するように教育して、がんをやっつけようという治療法です。

少し説明を追加すると、手術によりがん患者さんから摘出したがん組織中のがん抗原を目立つように手を加えてワクチンとし、がんに対する免疫力を高めてがんの治療を行うというものです。がん抗原とは、がん細胞の表面にある、「私、がん細胞ですよ~」という目印のようなものとイメージしてください。ですから、「私、がん細胞ですよ~」という目印を持ったがん細胞だけをCTLに殺させようという仕組みになります(図2)。

また、本法は、患者さん自身の体内にあったがん組織をがん抗原の原材料として使用するため、がん細胞の中のがん抗原のほとんどすべてが体内免疫系の識別対象になり得るというのが大きな特徴であり、他のがんワクチンなどとの決定的な違いであるとともに魅力です(図3)

ホルマリン固定標本からがん抗原を得ることができるのか

さて、ここで疑問が……。生標本をイカ、ホルマリン固定標本をスルメに例えて、そもそもスルメからワクチンができるのか?と感じている医療従事者は少なくありません。その疑問は当然といえば当然です。そこで、ホルマリン固定標本から本当にがん抗原を得ることができるのかという問いに対して補足しておきます。

細胞性免疫反応におけるがん抗原の本体は、がん抗原タンパク中のアミノ酸残基数9~15個のペプチドからなります。そのアミノ酸残基の中でホルマリンと反応する官能基がないペプチドの場合は、長期ホルマリン漬けに対して安定で、大部分は壊れずに残存しています。つまり、スルメの中でもイカの中と同じ状態でがん抗原はしっかり残っているというわけです。そして、実際にこれらのペプチドは抗原提示細胞の中でうまく処理され細胞表面に提示されて、十分がん抗原として働くことが科学的に証明されました(NatureMedicine,1:267-271,1995)。

結論:ホルマリン固定標本から、ちゃんとワクチン作製は可能です。そもそも、ホルマリン固定標本からがんワクチンが作れるなど誰が考え得たでしょうか?誰も予想すらしなかったからこそ、2007年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で世界の研究者に驚きと衝撃をもって高く評価されたのです。まさに“ものづくり日本”の真骨頂です。

神経膠芽腫(グリオブラストーマ)の臨床試験が着々と進行中

2011年、東京女子医科大学と筑波大学の研究グループの神経膠芽腫(グリオブラストーマ)に対する自家がんワクチン療法についてのフェーズⅠ・Ⅱ前向き臨床試験の結果がJ Neurosurgery(115:248-55,2011)に報告されて以来、世の中の神経膠芽腫に対する免疫療法への扱いが明らかに変わりました。以前はワクチン作製のために組織標本が欲しいと主治医に頼むと怪訝な顔をされたり、「そんな治療は聞いたコトがない」などと嫌みの1つも言われたりすることが少なくありませんでしたが、J Neurosurgeryの論文掲載以降、医療機関から自家がんワクチン療法希望患者さんへの標本の提出が非常にスムーズに進むようになりました。われわれ医療の世界は1つの秀逸な英語論文で、手の平を返すように劇的に変わることがあります。

神経膠芽腫は、一般の標準治療での全生存期間、無再発生存期間の中央値がそれぞれ14.6カ月、6.0カ月であるのに対して自家がんワクチン導入症例では、全生存期間21.4カ月、無再発生存期間7.6カ月となっており、自家がんワクチン療法導入症例は、全生存期間、無増悪再発期間のいずれにおいても標準治療を上回る成績が得られています。

ここで特筆すべきは、神経膠芽腫に対する免疫療法は現行標準治療の中で併用して行いうるということです。神経膠芽腫で使用される経口抗がん剤TMZ(テモゾロマイド)は白血球減少などの血液毒性が比較的少ないため、神経膠芽腫の診療領域では標準治療に免疫療法を併用する環境が整いやすいというのが最大の特徴です(図3)。

神経膠芽腫領域にてさらなる前向き臨床試験が全国規模で始まろうとしています。
2013年は神経膠芽腫に対する免疫療法のさらなる朗報が出てくる年になるでしょう。

放射線治療との併用で効果発現をみた肺がん症例

57歳、男性の肺がん根治症例を紹介します。右上葉肺がんと診断され、肺がん根治術後に「抗がん剤治療はイヤ、放射線治療もイヤ」という患者さんに、再発予防目的の術後補助療法として自家がんワクチンを導入しました。

本症例は病理組織学的には低分化肺腺がん。低分化肺腺がんは喫煙者に多く、高分化肺腺がんよりも予後が悪いというのが特徴です。一般的に同じ肺がんでも非喫煙者の肺がんと喫煙者の肺がんでは後者のほうがタチが悪く、治療成績も不良です。ワクチンを投与したものの、2カ月後に縦隔リンパ節、右鎖骨上リンパ節に転移が認められ鎖骨上のリンパ節は、触診でもゴリゴリとハッキリ触れます(図4)。

「これは、予後は厳しいぞ……」この時はそう思っていました。さて、放射線治療はイヤだと言っていた患者さんですが、そうは言っていられません。縦隔と鎖骨上領域に放射線照射を行ったところ著効し、転移リンパ節は著明に縮小し、腫瘍マーカーも正常値になりました(図5)。

ここまでの経過を見ると放射線治療が著効した症例であり、自家がんワクチンは治療効果になんら関与していないように見えますが、本症例のようなケースでは放射線治療による病状寛解は一時的なものであり、いずれ間違いなく再発してくるのが一般的です。頸部リンパ節に転移があるということは、がんの広がりが局所の問題ではなく、全身に広がりを見せている状態と捉えられるからです。患者さんの希望に沿う形で少量(低用量)抗がん剤治療の導入も行いましたが、5-FU125mg/body隔週投与といった形だけの少量(低用量)抗がん剤治療で低分化肺腺がんの動きを止めうるなどまったく考えておらず、再発時は本格的に抗がん剤治療の導入を検討していました。そうした中、一向に再発の兆候は認められません。いつ再発するかと気をもみながら5年が経ちました。進行スピードの速い肺がんが5年以上再発してこなかったということで、根治との判断となりました。

ここで、本症例では根治に至った理由を放射線照射の併用で自家がんワクチン療法の効果が増強したためと考察しました。本症例のようにがん病巣に放射線治療を行うことにより、ワクチン療法の効果が発現もしくは増強した症例は過去にも報告されています。

放射線でがん組織を崩すことで抗原提示がハッキリとなされることがワクチンの治療効果を引き上げます。また、放射線照射後にがん細胞が生き残ったとしても、放射線で弱ったがん細胞はワクチンにより誘導されるCTLに殺されやすくなることも報告されています。本症例では、肺がんの病態進行が長期にわたり制御できていた理由が放射線治療や少量(低用量)抗がん剤治療単独での説明がつきにくいため、放射線治療を併用した自家がんワクチン療法が腫瘍制御の重要な役割を担っていたと判断せざるを得ないのです。もちろん、すべての症例で同様の結果が望めるわけではありませんが、本症例のような例が存在するのは事実であり、情報提示の1つとしたいと思います。

補足

免疫療法とは患者さんが考えているほど派手な世界ではありません。がんの治療はなかなか理論通り・理屈通りにはいきません。当院での免疫療法の治療経験から、まずは次の2点をお伝えしたいと思います。

  1. 単独使用ではなく、他治療併用の中で効果発現を期待したい。
  2. できれば再発治療よりも再発予防としての導入を勧めたい。

さらに、細かいコトは、個々の患者さんのバックグラウンドや他治療(多くの場合は抗がん剤治療)との兼ね合いをみながら、導入の可否・時期・タイミングなどを検討します。いずれにせよ、個々の患者さんのなかで、適切な治療とは何か、を探りながら、目の前のことを粛々と進めていくことになります。

また、免疫療法はどれも高価な治療です。お金をドブに捨てることにならないように、いくつかの施行施設の意見を聴きながら冷静な判断のもと導入を検討することをお勧めします。くれぐれも藁をもすがる患者さんの足元を見たようながんビジネスとしての免疫療法には十分気をつけてください。

以下、免疫療法の比較表を添付しておきます。(図6)

自家がんワクチンだけでなく、他の免疫療法の学術的な内容についていろいろお知りに
なりたい患者さんは、セルメディシン株式会社に直接問い合わせてみるといいでしょう。
学術スタッフの皆さんが冷静かつニュートラルなスタンスで快く応えてくれるはずです。

セルメディシン株式会社 連絡先
0298-28-5591

月刊誌「統合医療でがんに克つ 2013.1.vol.55」より

当院ではがん電話相談(無料)を実施しております

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担当:医療コーディネーター 岡田里香
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AERA  2015年9月7日号
大特集「がんを恐れない」
週刊現代
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