連載「がんの休眠療法」第6回 キャンサーワールドはミステリアス|東京都中央区銀座並木通りクリニックは内科・外科・呼吸器科の一般診療とがんの外来治療(腫瘍内科・緩和ケア内科)中心のクリニックです

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1.免疫療法の最近の動向および自家がんワクチン療法について
2.からだにやさしい少量抗がん剤治療について

連載「がんの休眠療法」第6回
キャンサーワールドはミステリアス

さて、今回はどの患者さんの例をお見せしようかな?いろいろあるな……休眠療法の効果を認める患者さんはたくさんおられるので、原稿のネタには困りません。患者さんの背景と実際に行った治療およびその反応をそのまま正直に文章にするだけです。作文能力の乏しい私にも、何とかいまだ連載が続けられている理由です。もちろん、患者さんには「今度、○○さんのことを書かせてください。個人の特定はできないようにしますから」と了解を得ています。

「私の例が同じように″がん難民″として困っている方々の少しでも助けになるのなら……」
と皆さんとても好意的です。ホントに有難く、頭が下がります。

平滑筋肉腫の転移性肺腫瘍の1症例

今回は、子宮平滑筋肉腫の転移性肺腫瘍の患者さんのお話です。チョット特殊な症例です。

その患者さんは、子宮筋腫の診断で子宮摘出術を施行した数年後、両側肺に大小……多発性に腫瘍が出現し「転移性肺がん疑い」と診断されました。全身の精密検査をするも原発巣が不明であったため、もしやと摘出子宮のプレパラート(顕微鏡観察用の標本のこと)を改めて見直してみたところ、良性の子宮筋腫ではなく子宮平滑筋肉腫という悪性腫瘍でした。

ここで肺病変は「子宮平滑筋肉腫の転移」と診断が下されました。転移してきて、原発巣を見直したら実は悪性腫瘍だったという婦人科領域でときどきお見受けするパターンです。

さて、平滑筋肉腫の肺転移……両側多発ですから、手術・放射線治療の適応にはなりません。
抗がん剤という手が残っていますが、平滑筋肉腫に抗がん剤はほとんど効果を望めません。

セカンドオピニオンを聞きに行った某がんセンターの医師も、
「あなたが望むなら、抗がん剤をやってみてもいいけど……」と言いながらも、やる気ナシ。

主治医からは、
「持って1年ですね」
「桜、見られるかなぁ……」
「来年になったら覚悟してくださいね」
など、容赦ない余命宣告の嵐。

「見捨てられた」という思いのなか、ワラにもすがる思いで代替医療を始めましたが、祈るような思いで撮影する胸部CTで検査のたびに腫瘍径は増大しています。自分に死が迫っていることをわざわざ確認するために検査をしているようでした。

「ほら、そんな治療、効かないって言ったでしょう?どんどん悪くなっているよ」と主治医は代替療法を否定するけど、ほかに治療案を呈示してくれるわけではありません。頼るトコとはそこしかない、だから代替療法から抜けられない。この患者さんに限らず、同じような状況の患者さんは他にもたくさんおられるはずです。

当院を受診されたのはそんな矢先のことでした。

アドリアマイシンの少量単剤投与

「平滑筋肉腫か……、さて……」

休眠療法を試みるにしても、平滑筋肉腫は保険適応薬剤が意外に少なく、またご本人の「抗がん剤は極力少なく」との要望もあり薬剤の選定に迷いました。でも迷ってばかりでは先に進めません。

「とりあえず、これから……」と選択したのがアドリアマイシンという薬剤です。アドリアマイシンという薬剤はアントラサイクリン系という抗がん剤に分類され、昔から使われている薬剤で乳がん、消化器がんなどにも使われます。アドリアマイシン単剤を10mg/body/週という「ナンじゃそれ?」という少量投与から開始しました。

私も「さすがに、この量では効かないだろう。本人の様子を見ながら増量しなきゃ。あるいは他の抗がん剤を併用するか……」と思いながらの治療開始でした。

ところが、その後のCT検査で、腫瘍が増大する気配がまったくありません。

「へぇー、止まったよ……アドリアマイシン単剤で……しかもこの量で……」

正直、自分でも驚きです……。

何はともあれ、投与始めて約12カ月。「あと1年」といわれた余命宣告は余裕でクリアです。治療の副作用はまったくなく外来通院中です。そして、この先のことなんてまったく分かりません。病状が進行するから余命宣告がなされるわけで、「引け分けキープ」なら余命宣告はなしようがありませんから。

居酒屋でも科学は芽吹く

さて、この休眠療法による腫瘍増殖抑制のメカニズムとして、腫瘍の血管新生が抑制される(本来は血管内皮細胞を標的にするというメトロノミック療法として報告されたモノですが……)、がん細胞の免疫抑制因子の産生を抑制する(もともと休眠療法では、白血球数を減らさないように抗がん剤を調節投与しますが)といった報告がありますが、以下は某大学でがんの基礎研究に携わっているN医師との居酒屋でのやりとりです。

「アドリアマイシン少量、単剤で進行が止まった平滑筋肉腫の肺転移症例をどう思う?」
という私の問いに対して、
「ボクは、アリだと思う」とN医師。

彼が言うには、がん細胞の増殖経路に関しては基礎レベルで盛んに研究が進められているが、今後はがん細胞の増殖に関与している増殖経路と抗がん剤との関連を調べ、目的増殖経路を抑えるような抗がん剤を治療薬として選択する方向になる、とのことでした。また、腫瘍細胞が仮に単一の増殖経路に依存して増殖している場合、そこさえ押さえれば腫瘍細胞は急速に死滅するとのこと。

「それなら、あくまで仮説だけど、その増殖経路と抗がん剤がガッチリ相性の合う“鍵穴”と”鍵”の関係のような場合、本来の抗がん剤の量は従来よりももっと減らせんじゃない?」

「うん、その仮説はあり得るよ」

とまぁ、こんな話が、遺伝子発現やタンパク発現の話と重なりながら居酒屋の隅で弾むのです。今回お見せした症例で、実際にどういったメカニズムが働いて腫瘍制御に繋がっているのか、それこそ細胞の増殖経路に対してアドリアマイシンが「鍵」として働いたのかどうかも本当のところはわかりません。しかしながら、休眠療法を否定する実地臨床医が多いなか、少なくとも私の周りにいるがん臨床・研究に携わっている医師に関してはハナからの否定はなく、私と目を合わせて休眠療法の話に対峙してくれます。こういった医師仲間が自分の周りにいるということは正直嬉しいことです。臨床的事実を素直に観察し、考察するところから科学の息吹は育ち始めているのです。まだまだ時間は必要でしょうが、抗がん剤投与法に関しては将来大きな転換期が来る。私にはそのような気がしてなりません。

月刊誌「統合医療でがんに克つ2008.12vol.6」より

月刊誌「統合医療でがんに克つ」連載 がんの休眠療法

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