連載「がんの休眠療法」第1回 がん難民救済のカギ 止まらないがん難民の発生|がんの外来治療(腫瘍内科・緩和ケア内科)と内科・外科・呼吸器科の銀座並木通りクリニック

がんと共存して長生きを

連載「がんの休眠療法」第1回
がん難民救済のカギ 止まらないがん難民の発生

現在、日本のがん治療の現場では納得した治療・療養生活を探し求めてさまよう「がん難民」と呼ばれる患者さんが増えていることが大きな問題となっています。手術や抗がん剤治療といった標準治療はほぼ平均的に全国に行き渡っているにもかかわらず、がん難民になる患者さんが跡を絶ちません。何故でしょうか?

日本のがん治療の全体像について

日本のがん治療の全体像は、手術・抗がん剤・放射線治療を中心とした標準治療とがんの終末期のケアを目的とする緩和医療の2つに大きく分けられています。一般に標準治療で約半分のがん患者さんに根治が望めます。しかし、残りの半分は根治が見込めない患者さんたちです。ここで標準治療を使いきるあるいは標準治療ができなくなった時点で、「もう、治療はありません。あとは、緩和医療です」と言い渡されます。

また、抗がん剤の副作用で心身ともにボロボロになって、「もう、イヤだ」と、その先の抗がん剤治療を拒否した場合も「もう、治療はありませんから来なくていいです。あとは緩和病棟に行ってください」と見捨てられます。

ほかにも、抗がん剤治療の副作用で苦しんだ身内や知人を見たことのある方のなかで、最初から「抗がん剤治療はやりたくない」という患者さんも同様です。「それなら、もう来るな」です。

ところが、がんが身体に残っている、医師に見捨てられた“元気な”がん患者さんはたくさんいます。そういった患者さんは、「自分はまだ、こんなに元気なのに治療がないから緩和病棟に行けといわれた。本当に、もう諦めなくてはいけないのか?」 という思いから、何らかの治療・希望・可能性を求めてさまよう「がん難民」となるのです。がん難民は標準治療と緩和医療とに連続性がなく、両方の間に大きなスキマが存在することにより生まれます(図)。

このスキマをいちばん実感しているのは患者さんご本人、あるいはそのご家族の方々でしょう。このスキマでは「これ以上治療はない」が前提のため、標準治療を提供する大学病院、がん専門病院、総合病院では解決策が出てこないことが多いのです。

一方、緩和医療ではモルヒネによる疼痛コントロールなど、がんに伴う症状の緩和行為は行うものの、がん病巣そのものに対しての医療行為は何もしないで死を待っているのが現状です。多くの患者さんは、たとえ緩和病棟を勧められようと延命効果が見込めないと告げられようと心の中では、いつまでもがんそのものに対する何らかの治療行為を求めています。

スキマでさまようがん難民は救えるのか?

がん治療の構造的なスキマの存在が“がん難民”を生じさせる原因であるということは、つまり、そのスキマを埋める治療が必要とされているということです。私は、そのスキマを埋める治療として以下の7項目すべてを満たすものを求めます。

  1. 治療内容に継続性があること。
  2. 患者さんが元気に日常を送れること。
  3. どの患者さんにも行える治療であること。
  4. 治療で苦しまないこと。
  5. 科学的裏付け・理論があること。
  6. “がん”が大きくならないことを目指すこと。
  7. 保険診療を基本とし、患者さんの経済的負担が軽いこと。

このなかで、継続性というのは特に重要で、継続性がある故にスキマを補填でき得るのです。また、経済的な継続性も重要で、標準治療をはずれた部分は保険医療適応外であることがほとんどで、患者さんに経済的に負担をかけることも少なくありません。治療内容だけでなく、経済的にも継続性があるというのはとても大切なことです。さて、そんな都合のいい治療法があるのでしょうか?

それが、あったのです。

目からウロコがポロリ……休眠療法

千葉大学大学院医学研究院、がん分子免疫治療学教授の高橋豊先生(注1)が提唱された“休眠療法”がそれにあたります。前述した7項目すべてを満たします。個々の患者さんの抗がん剤に合わせた継続しうる量の抗がん剤で治療する(最大継続投与量といいます)という考え方です。

一般に標準抗がん剤治療よりも使用する抗がん剤量が少なくなり、副作用をほとんど認めず(というより副作用が出ないように抗がん剤を調節する)、苦痛を伴わずに治療を継続したことが何よりの特徴です。

ここで、休眠療法の考え方を簡単に紹介しましょう。

休眠療法の“体眠”とはどのような状態をいうのでしょう?医学的な言葉にすると、「腫瘍の原発巣・転移巣が長期にわたり増殖せず、静止したままの状態で宿主に腫瘍負荷をかけずに経過する病態」となります。分かりやすく言い換えると、“がん”の病状に動きがないということです。つまり、がん治療効果としては押しも引かれもしない“引き分け”状態です。“がん”と同居・共存して長生きしよう、というものです。

「がんは“引き分け”なら死なない。だって今生きているから。
だから、勝たなくていい、引き分けを目指せばいい」それが休眠療法の考え方です。

標準抗がん剤治療が少しでも多くの“がん細胞”を殺すことを目的としているのに対して、休眠療法は、“がん細胞”をたくさん殺すことばかり考えずに“がん”と同居して長生きしよう、というものです。 そして、抗がん剤の投与の仕方は、標準抗がん剤治療がコップ酒1杯の一気飲みに似ているのに対して、休眠療法はおちょこで少しずつ、お酒に対する身体の反応を見ながら、自分の身をいたわりつつ飲み続けようというものです。実際に使用する抗がん剤の量は、個々の患者さんで抗がん剤感受性が異なるため、一概には言えませんが、だいたい標準投与量の5分の1くらいを維持量とする患者さんが多いでしょうか。なかには10分の1くらいとさらに少量の患者さんもいます。病状を見ながら、重篤な副作用が出ないよう、免疫力を下げないよう投与量を調整し、外来通院で行います。

さて、この休眠療法ですが、現在ごく一部の医療機関でしか行われていません。それは、休眠療法が現時点ではエビデンス(根拠)が十分でないという理由のため、“非標準”抗がん剤治療のレッテルを貼られているからです。
抗がん剤の投与法としては完全に「異端児」扱いです。

しかし、今後の症例の蓄積や、臨床試験が進むことで広く知られるようになり、抗がん剤治療の方法論の1つとしていつか日本全国で行える日が来るはずです。何よりも、患者さんのニーズにこれほど合致した治療法がいつまでも“日陰者”扱いされてよいわけがありません。大病院時代、標準抗がん剤治療しか経験のなかった私が休眠療法を試みてみたところ、実際の効果にビックリしたのが事実なのです。正直、目からウロコが落ちました。

次回から、経験した休眠療法の実例を紹介していきましょう。

月刊誌「統合医療でがんに克つ2008.7 vol.1」より


1. 本文中の高橋豊先生の経歴は雑誌掲載時のものです。2013年11月現在の経歴は、化学療法研究所附属病院・外来化学療法部長国際医療福祉大学教授となります。

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