連載「がんの休眠療法」第7回 がん休眠療法と分子標的治療薬|東京都中央区銀座並木通りクリニックは内科・外科・呼吸器科の一般診療とがんの外来治療(腫瘍内科・緩和ケア内科)中心のクリニックです

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連載「がんの休眠療法」第7回
がん休眠療法と分子標的治療薬

分子標的治療薬とは

従来の抗がん剤は20世紀初めドイツ軍の開発したマスタードガスという毒ガスの誘導体(ナイトロジェンマスタード)をがん治療に利用するところから始まり、細胞を殺す作用(殺細胞性)に重点が置かれさまざまな研究がされてきました。しかしながら、もともと“毒”ですから、がん細胞だけでなく正常な細胞にも作用してしまうため、白血球減少などの副作用が問題となってくるのは周知のとおりです。そこで、がん細胞にだけ作用する治療法ができないかという思いが分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)の開発へとつながりました。

がん治療における分子標的治療とは、がん細胞の特定の分子構造を狙い撃ちしてその機能を抑えることにより病気を治療する治療法のことを言います。そして、この分子標的治療に使用する薬を分子標的治療薬と呼びます。“分子”という言い方がわかりにくければ、“目印”という単語に置き換えてみるといいでしょう。イメージしやすくなります。がん細胞に存在するがんの悪性化にかかわる増殖因子や転移関連因子などに関係する“目印”に作用して、がんの進行を制御しようということです。

従来の抗がん剤の多くもその作用機序を探ると何らかの標的分子を持つと思われますが、分子標的治療は創薬や治療法設計の段階から分子レベルの標的を定めている点が従来の抗がん剤開発・研究とは異なる点です。分子生物学、遺伝学が生んだ新しいコンセプトの新種の薬剤と言えます。

具体的な薬剤名として、ハーセプチン、イレッサ、タルセバ、アバスチン、グリベック、ネクサバールその他があり、日本ではそれぞれがん種によって保険適応薬となっています。分子標的治療薬は今後も開発・臨床研究が進み、次々に新しいものが出てくるでしょう。

がん休眠療法+分子標的治療薬イレッサの1症例

さて、今回は分子標的治療薬イレッサとがん休眠療法を併用した例をお見せします。双方の相互作用によりがん制御が得られていたと思われるケースです。

75歳の男性の患者さんで左肺がん・両側多発肺転移・多発肝転移・病期Ⅳと診断され、余命3カ月~1年と宣告されました。病期Ⅳ肺がんには抗がん剤治療が一般に選択されます。都内基幹病院でカルボプラチン+タキソールの標準抗がん剤治療を4クール、さらにタキソテール単剤投与を2クール行いました。治療効果として原発巣の縮小、転移巣の縮小を見ましたがそれも一時的で、その後病巣は再増大、加えて脳転移も出現しました。まぁ、抗がん剤治療の一般的な道筋というか経過です。従来の抗がん剤の効果を認めなくなったところで、イレッサの投与開始となりました。

転移性脳腫瘍に対してはガンマナイフ治療を行いました。イレッサにより原発巣は縮小し、肺転移巣と肝転移巣はほとんど画像上消失しました。転移巣コントロールはがん治療における重要事項の1つで、そういう意味で、この方のイレッサ投与は非常に効果的だったと言えます。

イレッサ投与を中止したところ原発巣が再増大

さて、当初イレッサはよく効いていたのですが、だんだん効きが悪くなってきました。効いていたクスリが効かなくなることを薬剤耐性と言います。この方の場合、イレッサ開始から10カ月後に原発巣の再増大、脳転移の再発を認めました。

「からだにやさしい外来通院治療で、日常生活の質を重視したい。いい時間を維持しながら行けるところまで行きたい」と、がん休眠療法を希望され、私のところを訪れたのはちょうどその頃でした。自分の人生観・死生観についてキチッとした方向性をお持ちの方でした。早速、投与されていたイレッサに加えて、TS1 100mg/body/隔日服用+ジェムザール200mg/body/週で治療を開始しました。ジェムザールを400mg/body/週以上にすると体がだるくなり日常生活に影響するとのことでしたので、ジェムザールは200~400mg/body/週を継続投与量として、その時その時の状態を見ながら調節投与しました。脳転移に対してはガンマナイフを再照射しました。

治療効果は、まぁ満足できるモノでした。がん休眠療法は、あくまで「がんは引き分けなら死なない、だって今生きているから」を念頭に置いた、“引き分け狙い”が表向きのスタンスですから、がんを”消す”なんてそうそう出来もしないことを治療前はほとんど考えていません。

とはいうものの、実際は引き分けではなく相手(がん)を少し押し返すくらいのことをがん休眠療法はやってのけます。別に珍しいことではありません。よくあることです。この方も治療開始後、原発巣の縮小傾向を認めました(図)。引き分けヨシと考えていたところですから、これはこれでうれしい話デス。このまま治療継続です。

ここで、イレッサ投与にもかかわらず原発巣が増大傾向にあったところをTS1とジェムザールの投与で病巣が縮小したということは、イレッサ投与は必要ないのでははないか?ジェムザールとTS1のがん休眠療法だけの治療に切り替えていいのではないか?と考えイレッサ投与を中止しました。

ところが、イレッサを中止したとたんに原発巣が再増大してしまったのです。そこで、「こりゃいかん」とあわてて、イレッサを再投与したところ増大傾向は止まり落ち着きました。「ホッ」と安堵デス。

この一連の経過から考察するに、がん休眠療法と分子標的治療薬のイレッサが何らかの相互作用のもとに制がん効果を生み出していたとしか考えられません。ここで以前、がん休眠療法提唱者の高橋豊先生(千葉大学大学院医学研究院・がん分子免疫治療学教授)(注1)が、「がん休眠療法と分子標的治療薬の併用は個人的には最も期待している」と言われていたのを思い出し、「なるほど、確かにこういう実例があるわけだ……」と感じ入るのです。

「いい時間を一番長く」のために

この患者さんが言われるように、医療の目的は「いい時間を一番長く」デス。なぜなら、永遠の命の方はおられませんから……。そうすると、医療の目的は必ずしも「治す」ではありません。そもそも、がんという病気は治るヒト半分、治らないヒト半分です。

治らないがんに対する私の治療スタンスは「引き分けでいい」です。そのためには広い意味での「休眠」を目指していけばいいわけで、別に従来の抗がん剤によるがん休眠療法だけにこだわる必要はありません。ケンカしない方法論との併用は大いに結構と考えます。

月刊誌「統合医療でがんに克つ2009.1vol.7」より



1. 本文中の高橋豊先生の経歴は雑誌掲載時のものです。
   2013年11月現在の経歴は、化学療法研究所附属病院・外来化学療法部長 国際医療福祉大学教授となります。

月刊誌「統合医療でがんに克つ」連載 がんの休眠療法

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